Machine-gun Talk! 76

黒子のあんなちっせえ背中に何度も助けられてきたことを認めよう。アイツが戻ってこなかったら、この試合キツイどころじゃねぇ。もちろんアイツのことを信じちゃいるけれど、期待はするなと自分に言い聞かせる。マジで何度も助けられてきた。青峰に勝てるかどうかなんて関係なく、今度がオレが、アイツを助けるんだ。

黒子くんの敗北によって火神くんが覚醒した。今まで追いつけなかった青峰くんの動きに反応出来ていたり、逆にボールを積極的に取りにいってたり、…まさかさっきの黒子くんの完敗をきっかけに無意識に蓋をしていた100%の力が解放されたとでもいうんだろうか。だとしたら皮肉な話だ。そんな火神くんを見て誰よりも大きな反応を示した青峰くんは「せいぜい楽しませてくれよ」と言うなり更に速さの増したプレーをやりだした。ゴールに背を向けたままシュートって、そりゃないぜとしか言いようがない。どこまでもムチャクチャなプレーしかしないよねホントに。

特筆すべきは火神くんの恐るべき成長っぷりだ。青峰くんのあの速さについけいけてるだけでも十分驚いたのに、全開の青峰くんのフォームレスシュートをブロックするだなんて誰が予想しただろうか。火神くんに人並み外れた跳躍力が備わっていることはもちろん知っていたけれど、まさかここまでとは。呆気にとられることしか出来ない。フォームレスシュートを放とうとしたときはさすがにびっくりしたけれど、キセキの世代青峰くんより誠凛のエース火神くんの方が実力が上だなんて、そんなこと有り得るんだろうか。開始前とはまた違う胸騒ぎにゾクゾクした。第二クォーター終了時点で2点差。油断は禁物だけど、期待くらいならしたって罰も当たらないよね。

インターバルの間、黒子くんが表の空気を吸いたいと言ってどこかに行ってしまった。あれ、ジャージ持っていってすらないんじゃないのあの子…。冬じゃん今。ユニフォームだけじゃめっちゃ寒いでしょ。何か言いたげだった火神くんに黒子くんへジャージを届けるように伝えた。一年生同士、光と影同士、話したいことがあるんだろう。我ながらナイス気配りだ。あたしが言わなくても火神くんは行くつもりだったみたいだけどね。

後から聞いた話だけど、黒子くんはこのとき「もう一度青峰君が笑ってプレイする姿が見たい」と言ったらしい。見たい。あたしもそれはめっちゃ見たい。聞いた直後の率直な感想は青峰くんにも笑ってプレイしてた時期があったのか、だった。まあ当たり前っちゃ当たり前か。根っからのバスケ少年っぽいもんなあ。今はちょっと自暴自棄になってるっていうか、バスケが嫌いってわけじゃなさそうだけど真摯に向き合うことを避けてるみたいだ。中学時代の相棒として、やっぱり気になっちゃうんだろうなあ。第三者の視点でしか考えられないから本当のところは本人たちにしか分からないけれど。

後半第三クォーターが始まった。もう一度コートに立った黒子くんを見て思う。もう大丈夫そうだ。いつもと同じ強い瞳をしてる。幾度となくピンチを救ってきたシックスマンはまだ折れちゃいなかった。めちゃくちゃ体格差のある青峰くんに対しても臆することなくファウル貰いにいくくらいには折れちゃいなかった。いやでもあれは一つ間違えたらとんでもない怪我に繋がりかねないから出来ればああいう危ない真似はやめてほしいんだけど…最後に判断するのはコートの中にいる選手自身だからなあ。良い意味でも悪い意味でもコート外の人間の声は時にして届かないのだ。だけどやっぱりパス回しをする黒子くんがチームにもたらす力は絶大で、ウィンターカップ攻撃力ナンバーワンと言われる桐皇を誠凛がとうとう一点差でリードするまでになった。このままトントン拍子でいけたらラッキーなんだけど、今吉さんを見ている限りそうはいかなさそうだなー。心してかからないとダメそうだね。

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