Machine-gun Talk! 77

今吉さんが黒子くんのマークにつくという予期せぬ事態が起こった。黒子くんを封じるつもりだろうか。出来るのかそんなこと。訝しげに様子を窺っていた誠凛側のベンチがどよめきだした。黒子くんがマークを外せていない。ミスディレクションが効いていないのだ。そんな馬鹿な。しかし今吉さんはあの花宮でさえ恐れをなしている先輩である。つまりは悪童を超えた魔王だ。妖怪だ。腹の探り合いはお得意分野ということだろう。スリーポイントを決められ、誠凛との点差は4点差にまで広がった。バリアジャンパーの種も見破られ始めたみたいだし、いよいよまずくなってきたかも。

青峰くんの攻撃力が前半よりも増しているように思えるのはあたしの気のせいだろうか。空中で一回転してかわす、なんて人間業じゃないよ。火神くんがアメリカで野生を身に着けたのと同じように、青峰くんも野生を持っていたとでもいうのだろうか。バスケットボールプレイヤーとしての青峰くんはコートの上で絶対的存在感を放っていて、…格好いいなチクショウ。格好いい。どんどん精度が上がる桃井ちゃんのデータに基づいた桐皇のディフェンスに対して、誠凛は黒子くんのミスディレクションの効果も切れて絶体絶命の状態。万策尽きた。第三クォーター終了間際、点差は56対70。その場にいた全員が思ったことだろう。この試合、誠凛の負けだ、と。

「今勝つんだ!」と黒子くんが叫んだ。諦めが悪いところが誠凛のいいところであり強みでもある。ミスディレクションが切れた今、誠凛は万策尽きたはずで、気合だけじゃ何も変わらない。そうだろう、って?甘いなー、切れたんじゃない。あえて切れさせたんだよ!

伊月くんのバニシングドライブが炸裂した。黒子くんじゃない。伊月くんの、だ。何が起こっているのか分からないという顔をしている桐皇を見て、にんまりと微笑む。これこそが黒子くんの最後の切り札、ミスディレクションが切れて初めて使える大技、ミスディレクション・オーバーフローだ。ミスディレクションの効果が切れるというのは黒子くんにとって初めてのことなはずだ。よって、キセキの世代でさえ黒子くんがこの技を使えることは知らなかったはず。当然リスクはあって、この技を使ってしまうと桐皇にはもう二度とミスディレクションが使えなくなる。それでもここで負けるよりマシだ、と全員が思ったからこそこの大博打に打って出たのだ。先のことは勝ってから考えればいいんだから。

第三クォーター終了間際、今吉さんのブザービーターが決まった。このタイミングで決めてくるのか……。何とか点差を縮めたいこちらにとっては手痛い攻撃だ。黒子くんと木吉くんの消耗が激しい。何と声をかけようかと迷っていたら思っていたことを全部日向キャプテンが言ってくれた。このチームは強い。こういうときにズバッと言ってくれるからこの人凄いんだよなあ。そう思いながら、意気揚々とコートに向かう背中を見送った。

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