Machine-gun Talk! 78

第四クォーターが始まった。泣いても笑ってもこれが最後だ。チームメイトを信じて攻める誠凛と、絶対的エースの力を信じている桐皇。軍配が上がるのは、果たしてどちらのチームなのか。青峰くんの動きに食らいついていけるのは火神くんだけど、直接止めるだけじゃなくても点を稼ぐ方法はある。少し楽しそうな表情を浮かべる青峰くんに違和感を感じながら、それでもゲームは着々と進んでいった。

スポーツ選手には『ゾーン』という状態に陥ることが稀にある。余計な思考感情が一切なくなり、プレイに没頭する。ただの集中を超えた極限の集中状態のことだ。それは誰にでも体感できるものではなく、選ばれた特別な選手しか入れない特別な領域で、入ろうと思って入れるような類のものではない。そして、違和感の正体はこれだった。青峰くんは自力でゾーンの扉をこじ開けたのだ。

ただでさえ化け物レベルの強さなのにそれを超える実力を出されてしまっては手も足も出ない訳で。万事休す。どうしよう、そう思ってもベンチにいるあたしにはどうすることも出来ない。おろおろしていると、火神くんが覚醒した。火神くんもまた、ゾーンに入ったのだ。信じられない。素質は十分にあったとは思うけど、まさかこんなバトル漫画的展開が起こってしまうなんて。ゾーンに入ったエース二人の攻防は凄まじく、エース以外の人間はボールすらろくに触れない状態が続いた。圧倒的すぎる。目の当たりにするのはもちろん初めてだけど、ゾーンに入った者同士が戦うとこんなことになってしまうのか。何より青峰くんが楽しそうなのだ。いつまでも続くように思われた応酬の決着は突然訪れた。火神くんが青峰くんを抜いた。これは……ゾーンのタイムリミットだ。

残り30秒、一点差。追いつける。誰もがそう思った一瞬のことだった。天才スコアラーの名前は伊達じゃない。

「それでも最強は青峰や」

今吉さんがこう言うのを何度も聞いた。ゴールの裏からシュートしたボールがリングをくぐるのを見て、その言葉は確かに真実なのかもしれないと思う。それでも、それでも勝ちたいと願うのが挑戦者の醍醐味なのだとも思う。…とか格好つけてみたけれど、要は勝ちたい。ただただそれ一心なのだ。残り10秒を切った。最後の最後に黒子くんのオーバーフローの効果も切れた。再び万事休す…かと思ったところで火神くんにボールが渡されて、「火神くん!」思わず声を張り上げる。同じように叫んだ黒子くんの声に反応して、火神くんがパスを出した。空中からのパス出せるようになったじゃん……!

パスを受け止めたのは木吉くんで、点が決まるのと同時にフリースローも一本ついてきた。残り5秒で一点差。これは、いけるかもしれない。

誠凛が逆転するための道は一つしかない。最後のリバウンドに勝負がかかってる。予定通り外れたフリースローに、火神くんが食らいつく。そのボールをさらに青峰くんが弾いた。そしてその弾かれたボールを取るために誰よりも早く動いていたのは黒子くんで。

「最後に決めてくれると信じてるのは一人だけだ!」

火神くんのシュートが決まった。タイムアップ。これで本当の終わり、……本当に誠凛の勝ちだ。割れんばかりの拍手の中で、監督に抱きついた。今回はふり払われなくて少し拍子抜けするのと同時に、呆然とした表情を浮かべる青峰くんの姿が目に入る。

……もしかしたら、これが青峰くんにとっては生まれ初めての敗北なのかもしれないな。整列しながら拳をぶつけ合った黒子くんと青峰くんを見て、嬉しいような寂しいような、何とも言えない気持ちになってしまった。

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