Machine-gun Talk! 80

ウィンターカップ一回戦、桐皇学園との試合が終わった。この日に至るまでにこれまで何度かこういう風に試合をしてきたわけだけれども、そういえば全員で集まって試合終わりにご飯を食べに行くなんてことはあんまりしてこなかったなぁと「祝勝会しよーよ!」「できるか!」なんて言いながらわいわい歩いてる部員の皆を見ながら思った。これだけの試合を一緒にやってきてるんだから、打ち上げとか祝勝会とかもうちょっと頻繁にあってもいいような気がするんだけど、あんまりそういうのをやってきた記憶はないに等しい。あ、あれがあった。緑間くんと高尾くんと笠松さんと黄瀬くんにお好み焼き屋さんで会ったやつ。お好み焼き食べたり投げたりてんやわんやだった記憶しかないけどあのときは楽しかった。

それにしても、だ。全員で試合終わりにどっか行ったのって合宿とかを除けばホントにあれぐらいじゃないだろうか。別に仲が悪いってわけでもノリが悪いって訳でもないし、勝ったのを喜んでいないわけでも勿論なくて、ただ単に、そう言う流れにならないってだけなんだけど。理由はものすごく単純、試合後のテンションじゃ「早く帰って寝たい」しか考えられないからっていうシンプルなもの。ごくまれに睡眠欲に食欲が勝つときもあるけれど、そういうときも全員でご飯食べに行こうとか言えるような元気は残っていない場合が多い。だから結局、身近な後輩をマジバに引っ張っていって適当にお腹を膨らませて帰ることを繰り返していた。

そんなわけで、監督が祝勝会の話に乗ってその上火神くんの家にお邪魔する、ということが決まったときのあたしは内心かつてないほどに舞い上がっていた。合宿では四六時中一緒にいたけど今回は勝手が違う。祝勝会だ。そう、祝勝会。つまり宴だ!祭りだ!どんちゃん騒ぎだ!……というわけで、

「ひれぇえ!」
「火神おまっ、ここ一人で住んでんの!?」
「アメリカ帰りの時点でちょっと思ってたけどさては君ボンボンだね!?」

火神くんによると本当はお父さんと住むつもりで広い部屋を選んだはいいけどお父さんが急にアメリカに帰らなくちゃいけなくなった結果ここで一人で住んでるらしい。……部屋って言ってもボールと雑誌と家具ぐらいしかないんだけど火神くん本当にここで暮らしてるんだろうか。起きてご飯食べて学校行って帰ってきてまたご飯食べて寝て起きてを繰り返すためだけの空間なんじゃないだろうか。ゲームとかの話してても全然乗ってこないから疎いんだろうなと思ってたけどここまでバスケするためだけの部屋に住んでるとは思わなかった。今度お邪魔するときはゲーム持ってこよ。そんなことを思いつつ部屋の中をうろうろしているうちにふと気づいた。監督どこ行ったんだろ。

「……あれ?監督は?」
「買ってきた食材もってキッチン行きました!」
「え!?」

行きましたじゃないでしょそこ何で止めないの!ダメじゃん!プロテインカレーの二の舞になるの目に見えてるじゃん!慌てて一年生ににじり寄る二年生に紛れてあたしは日向くんの「体力回復どころか死人が出るぞ!」の台詞で合宿その他で振る舞われた監督の手料理を思い出して背筋が凍った。…あ、そんなこと言ってるうちに監督が来……ちゃんこ鍋できちゃった。

心配しなくても大丈夫よ!ホラ!と監督が得意げに鍋の蓋を開けた。恐る恐る覗き込んで、……戦慄した。普通だ!普通の美味しそうなちゃんこ鍋だ!え!マジで!何か変なの入ってそうにもないし普通のお鍋に見える。あ、黒子くんが毒味しようとしてる。大丈夫かな。って言ってるそばから、バ……バナナだと……?味見を命じられた黒子くんの箸がつゆの中から黄色いものを引っ張り上げた瞬間、もう一度背筋に寒気が走った。続けて木吉くんがイチゴを引っ張り上げたのを見て戦慄。しかも意外とイケるって言ってんだけど本当にイケるのかな疲れて味覚が鈍ってるとかじゃないよね?……闇鍋じゃないもんね?ちゃんこ鍋だもんね?フルーツ入ってるけど。果物らしき赤とか黄色がちらちら見えるけど。カントクのプレッシャーに耐えきれず恐る恐る鍋に箸を突っ込むと同じように不安そうな顔で箸で掴んだバナナを見つめる日向くんと目が合った。日向くんの表情が変わる。あーあれはお前も道連れにしてやる、って思ってる顔だ。「食え」って目が言ってるもの。た、食べなきゃなんないんだよねこれ。ごくりと唾を飲み込んだ。いざ。

……意外と美味しい(ような気がする)んだけど……。思ってたのと何か違う。咀嚼しながら首を傾げると勝ち誇ったような顔をする相田監督が目に入った。気まずくなって目線を逸らす。……参りました。

それから次に目を覚ましたのは一時間後だった。時計を確認して軽くパニックに陥る。何この空白の時間。…何してたんだっけ。ちゃんこ鍋か。……ちゃんこ鍋もとい闇鍋だったなそういえば。鍋を囲みながら順番に倒れていくチームメイトを見つめていたあの状況がここ最近じゃ一番の修羅場だった。もう相田監督にサプリメント買わせるの禁止にしたほうがいいんじゃないかな。料理中のカントクの手に渡らないようにサプリメント調達係もしくは監視係を別に作るべきだと思う。というよりあたしがやればいいのか。そうだ。そうだよね、うん。マネージャーとして経費で買えばいいんだ。明日にでも提案してみよっと。

それからさらに何分か経って、無事に全員復活したことを確認してからお開きになった。...お開きになったはずだったんだけど、奥の部屋から出てきた金髪お姉さんが「I missed you so much」なんて言いながら火神くんに熱烈なキスをお見舞いしたせいでもう何度目か分からない戦慄が走る。どうしよう何この状況。帰るに帰れなくなってるんだけど。波乱はまだまだ続きそうな予感しかしない。

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