Machine-gun Talk! 82

日本に滞在している間、アレックスさんは火神くんの家に住む予定らしい。家主の火神くん曰く「元々親父と住む予定だったから部屋は空いてるし、アレックスもホテルだと気が休まんねえってうるせーから」とかなんとかいう流れで今回の同居に至ったらしいんだけど、男子高校生と年頃の女性が一時的とはいえ同じ屋根の下で何日も過ごしているというのは……こう、選手の身を案ずるマネージャーとしても、火神くんを可愛がっている先輩の一人としても、中々放っておけないものがあると思う。

回りくどい言い方をやめてしまうと、思春期真っ盛りなあたし(と主にコガくん)はあの2人の関係に興味津々なのだ。だって、アメリカでバスケ教えてくれた師匠って人がまさかあんな綺麗な女の人だとは思わなかったし、その上一緒に住んでも構わないくらいの信頼関係があるなんて。気にならない方がどうかしてる。

と、いうわけで。

「火神くんはアレックスさんのこと好きだったりしないの?」
「はあ?」

心の底から何言ってんだコイツ、って思ってそうな目で先輩を見てくるのはやめてくれるかな火神くん。

「だってさあ、身近にあんな金髪美女がいたら好きにならないわけないじゃん。あたしだって同性だけど今でもちょっとドキドキしちゃうもん。それが男の子なら尚更なんじゃない?と思って。しかも一緒の部屋に住んでるときたら、いくら普段バスケばっかしてるバスケ馬鹿の火神くんでもさあ、好きになったりしないのかなって」 「ぜってーねえっす」

オレとアレックスはそういうんじゃないんで。真正面から全否定されて、何だよつまんないの、と口を尖らせる。あんな美女がそばに居ても靡かないなんて、火神くん、ほんとに年頃の高校生なんだろうか。それでも高校一年生なわけ。そのうちバスケットボールと結婚でもしちゃうんじゃない?

……というか、実は火神くんってモテるんだよね。黄瀬くんとか伊月くんみたいに表立って言われてないだけで、実は女子の間でもそこそこ人気があることをあたしは知っている。見た目ゴツいし髪の毛赤いし目つき悪いから怖い印象持たれがちなんだけど、アメリカ帰りなこともあってかレディファーストなところが特に女子の間でも評判らしい。ギャップがハートに刺さるとかなんとか。分かる。確かにちょいちょい優しいよね彼。ベタだけど重い荷物持ってくれたりドア開けて待っててくれたり。全然そういうの気が回らなさそうなタイプなのに意外だ。

あと単純に今快進撃を続けてる男子バスケ部のエースってところもポイント高いらしい。確かにエースとかキャプテンとかって女子の間で人気になりがちだよね。目立つし、何よりシンプルに格好良いから。これも気持ちはよく分かる。本人は全くそういうの興味なさそうなところがちょっとアレだけど。

「何見てんだよ、……っすよ」
「いや、……ほんとにバスケ馬鹿なんだなと思って」
「はあ!?」

こうやってすぐ怒るところは高校一年生らしくてちょっと可愛い。結局それからも火神くんはアレックスさんとの関係についても、特訓を受けたらしい新しい技についても何一つ教えてくれやしないまま、ウィンターカップ会場の体育館へ辿り着いてしまった。

1回戦全試合が終わって、ウィンターカップ3日目。出場していた50校は1回戦で32校まで絞られた。ここからはシード校も参戦し、1日で16試合…キセキの世代を擁するチームを含む全チームがここで激突する。

誠凛高校vs中宮南高校。桐皇学園を倒したあたしたちの、ウィンターカップ2回戦が始まろうとしていた。

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