Machine-gun Talk! 83

2回戦で当たる中宮南高校はじっくり時間をかけて攻めるハーフコートバスケットが得意なチームで、攻撃力重視の速い展開を得意とする誠凛とは些か相性が悪い。スカウティングの結果そう判断したカントクによって、いつもとは違うメンバー編成で試合がスタートした。日向キャプテン、伊月くん、木吉くん、水戸部くん、つっちーの二年生チームだ。1回戦で桐皇学園(めちゃくちゃ手強い)を倒して少し浮かれてしまっていたけれど、ウィンターカップはまだ開幕したばかりで、喜んでばかりもいられない。気を引き締めていかなくちゃ。……そう、頭では考えていたはずなのに。現実はなかなか思うようにはいかないものでして。

誠凛のプレーにいつものキレがない。1回戦のときのあの調子の良さが嘘のように、誠凛は中宮南に11点もリードを許していた。黒子くんや火神くんが出てないことを踏まえても、ここまで差が開く相手じゃないはずなのに。確かにあのとき青峰くん擁する桐皇に勝ったはずなのに、一体どうしてしまったんだろう。…いや、違うか。きっと逆だ。桐皇に勝ったからこそ、こうなってしまっているのかもしれない。

見かねた監督がタイムアウトを取った。叱咤しようとする言葉を遮って「オレら全員ひっぱたいてくんね?」と言ったキャプテンが大会のパンフを見て言葉を続ける。

「日本一が軽いものなはずないだろう」

……そうだ。あたしたちは、この大会で一番上を、日本一を目指しているんだ。こんなところで、例え無意識のうちあっても気を抜いたりなんて出来ない。勝つために必死なのは、誠凛も、他の出場校も、どこだって同じはずなんだから。

「つーわけでカントク、カツ入れるために一発景気いいの頼むわ!」

日向キャプテンの言葉を受けてノリノリな監督の平手打ちが決まっていく。……小気味いいくらいの軽快なリズムだ。前見たときもかなり痛そうだなあと思ってたけど、やっぱり何回見てもめちゃくちゃ痛そうで見てるこっちも慣れない。

ノリで叩かれたらしい黒子くんと火神くんの頬についたもみじとコートの中で走る彼らを見て思う。やっぱりこういう時に二年生は頼りになるなあ。最初の方のプレーが嘘みたいだ。あ、でも、黒子くんはこうなるの気づいてたんだよね。木吉くんもだっけ。さすが全国経験者なだけのことはある。……巻き添え食らったのはドンマイとしか言いようがないけど。

試合に出ている日向キャプテンたちを見つめる火神くんのは物凄く穏やかな目をしていて、「先輩も結構頼りになるもんでしょ?」と胸を張ると「うす」短い返事が返ってきた。……火神くんも、最初に比べたら随分と丸くなったものだ。あのときはまさか自分が出てない先輩たちの試合をこういう風な目で見られる子だとは思いもよらなかったのになあ。


試合終了。途中でヒヤヒヤしちゃったところもあったけど83対77で誠凛の勝ちだ。握手のときにワシらの分まで勝てよ!と涙を流しながら言っていた相手チームの選手を見て、実は結構いい人たちだったのかもと思ったり。

それにしても、今回は思ったよりも苦戦した試合だったなあ。キセキの世代の学校が特別目立ってるだけで、ここは全国の強豪校が集まるウィンターカップなんだからどのチームも手強くて当たり前なんだけど。ここまでがむしゃらにやってきたけれど、改めて考えると、誠凛もそんな強豪と肩を並べられるくらいのチームになってるってことだよね。決して気を抜いたりは出来ないけれど、改めてそう考えると胸にジーンと来るものがある。そんなことを考えながら、ベンチへと戻ってくる選手たちとハイタッチを交わしていく。

「お疲れ日向キャプテン!最初はちょっとヒヤヒヤしちゃったけど、監督に平手打ちでもみじ付けてもらった甲斐があったね!」
「おー。……そうだ、せっかくだからオマエもやってもらうか?」
「えっ」
「確かまだされたことなかっただろ」
「いつでも準備できてるわよ」
「ええー?!いい!いいから!遠慮しとく!やめてよ監督笑いながら近づいてこないでってば!」

肩をギュンギュン回してやる気十分なカントクを見て一目散に一年トリオのもとへと逃げ出した。試合に勝ってこれから気持ち良く帰るところだってのに、あんなの付けられちゃたまったもんじゃない!

その頃、時を同じくして黄瀬くんや緑間くん、紫原くん、そして赤司くんら優勝候補のチームも順調に勝利し、次の試合へと駒を進めていた。この時のあたしはまだ知らない。いずれ対戦することになる陽泉高校が未だ今大会無失点の超防御型チームであることを。そして、紫原敦という選手の恐ろしさを。あたしはまだ、全然分かっていなかった。

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