Machine-gun Talk! 87

第一クォーターは18対0に終わった。最後の木吉くんのリバウンドでなんとか凌いだ感じだけれど、依然として誠凛がピンチなことには変わりない。次のクォーターで点を取り返さなくちゃ負けてしまう。紫原くんを中心とした陽泉のディフェンスはとんでもなく堅い。日向キャプテンのスリーポイントシュートならなんとか決められるかもしれないけれど、勝つためにはなんとしても中から2点取りたい。中から、あの紫原くんのブロックをかいくぐって点を取るためには一体どうしたら…。皆で頭を悩ませているとき、「ボクにやらせてください」と挙手したのは黒子くんだった。「必ず決めます」と断言する姿に二年生皆で顔を見合わせる。あたしたちは知っているのだ。可愛い後輩がこういう顔をしているときは、思いっきり信じて任せてみることも先輩の役目だってことを。

黒子くんがパス専門の選手ってことは当然陽泉も知っていて、シュート要員には数えられていなかったはずだ。その彼がシュートの態勢に入ったのを見て、相手チームに動揺が広がっていくのが見える。でもどうせ決められるはずない、って思ってる?うちの後輩を舐めてもらっちゃ困るんだなこれが!

さっき火神くんの攻撃を止めた紫原くんがシュート態勢に入る黒子くんに追いついた。日本人離れした恵まれた体格に加えて反射神経も良いなんて、神は一体彼に何物を与えたら気が済むんだろう。だけど、そんな彼をもってしても止められないのが黒子くんの新技なのだ。決まった!黒子くんだけの技、消えるシュート。その名もファントムシュート!今大会初の得点を陽泉からもぎ取った!

絶対防御のイージスの盾が初めて崩されたことにベンチと客席がわっと沸きたつ中でも、試合はまだ続いている。こっちが点を決めたってことはつまり、次は陽泉の攻撃のターンがやってくるってことだ。守りを崩すだけじゃない。ここで攻撃を止められなければ、誠凛が以前ピンチなことには変わりない。まだ、18点差が16点差に縮まっただけなんだから。

陽泉の岡村さんが火神くんのディフェンスを振り切ってシュートを決めた。せっかく黒子くんが2点取ったところだったのに!慣れないセンターの役割に火神くん自身が対応しきれていないことはベンチからでも分かる。それでも、陽泉の2メートル越えの選手に対抗できるのは火神くんと木吉くんだけだ。ここはなんとか踏ん張らないと……!

「カントクー水戸部が火神あれじゃダメだって」
「コガくんよく顔見ただけで言ってること分かるね!?」

やっぱり今のままじゃダメだ。黒子くんのファントムシュートのおかげで点は入るようになってきたけれど、やっぱり向こうからの攻撃を止められなければ点差はいつまで経っても縮まらない。それは全員が分かってる。多分、火神くんが一番分かっているはずだ。コートの外から眺めているしかないことがもどかしい。でも、実際自分より大きい2メートル級の選手がガンガン中に入ってこようとするのを止めるのって一体どうしたらいいんだろう。

「もっと腰落とせ火神!」

火神くんの頭を木吉くんがバンバン叩いているのが目に入った。あんなでっかい手のひらで叩かれたら痛そう。木吉くんの手を振り払った火神くんが「そんなんやってるよちゃんと!」と口を尖らせる。そうだ、火神くんはちゃんと腰を落としてディフェンスやってる。だけどそれでも岡村さんを止められないってことは、それ以外にもやらないといけないことがあるってこと……?

木吉くんの言葉に何か思うことがあったのか、さらに重心を落としてグッと構えた火神くんが遂に岡村さんを捉えた。いける!ここからなら火神くんの足なら十分追いつける。放たれたシュートを火神くんが思いっきり弾いた。やったーブロック!やっぱり火神くんも隅に置けないね!

火神くんのブロックから勢いづいた誠凛は立て続けにシュートを決めて、第二クォーター終了時点で点差は29対17にまで縮まった。ここで調子に乗っちゃいけないことなんて分かってる。本当はめちゃくちゃ浮かれたいけど、それは試合終了まで取っておこう。映像で見た陽泉の怖さはこんなもんじゃなかった。きっとまだ彼らは底を見せていない。前半は紫原くんのディフェンスと岡村さんのオフェンスが目立っていたけど、陽泉の攻撃の要は氷室さんだ。あの人がここで何もせずに終わるはずがない。黒子くんを使った攻撃がおそらくあまり効かない陽泉を倒すには、火神くんが氷室くんを、木吉くんが紫原くんを攻略することが必須条件だ。

「こてんぱんにしてきてください」と二人に拳を差し出す黒子くんの後ろで思いっきり声援を送る。本当はあたしも拳ぶつけ合ったりしたいんだけど、その役目は黒子くんに譲ることにした。「エンリョなくやろーぜ」と氷室さんに向かって吠える火神くんはいつにも増して凛々しく見える。そういう眼をしてるってことは、きっと、祈らなくたって大丈夫だよね。

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