Machine-gun Talk! 88

第三クォーターにしてとうとう火神くんと氷室さんのエース同士の直接対決が実現した。睨み合う二人から漂うただならぬ緊張感がこっちにも伝染してきてあたしまで緊張してしまう。ストバスのときはあんまりプレイ見れなかったからまだどんな選手か分からないんだけど、ほんの少しのプレイだけでもめちゃくちゃ上手いんだろうなってことだけは分かる。黒子くんが「キセキの世代と遜色ない」って太鼓判押すくらいだし。

鮮やかすぎるモーションで氷室さんのシュートが入った。キャプテンも火神くんも目の前にいたのに反応できないなんて、一体どういう技…?横目でちらりと監督を見る。彼女はただ首を振って、「何もしてないわ」と続けた。氷室さんは何も変わったことはしていない。動作もシュート、フェイク、ドライブ、ストップ、そしてジャンプシュートの基本的な動きだけだ。ただ、一つ一つのプレイの質が高すぎて、シュートモーションに入ったことに誠凛の誰も気付けなかったらしい。そんなことある?

基本に忠実な超正統派。これまで常識破りのキセキの世代ばかりを相手にしてきたからすっかり忘れていたけれど、ゲームで一番怖いのはこういうスタンダードな動きを完璧に出来る選手だ。分かってはずなのに、何で今まで忘れてたんだろう。そう思っているうちにも試合はどんどん進んでいって、フェイクじゃなくて今度は本当にシュートを放った氷室さんの手から放たれたボールが火神くんのブロックをすり抜けてリングに吸い込まれる。ストバスのときに一度だけ見せたあのシュート、まぐれじゃなかったんだ……!

「黒子くんあれ何!?ボール消えちゃったけどどうなってんの!?」
「……わかりません。一見ボクのファントムシュートと似ていますが、おそらく仕組みも属性も全く別物です」

ええ……黒子くんにも分からないんだったらあたしになんて分かりっこない。仕組みも属性も違うってことは、おそらくミスディレクションをやってるわけではないってことで、じゃあどこか違うところにタネがあるってこと?それが何なのかが分かれば火神くんにも止められるんだろうか。もう一度シュートモーションに入った彼が見れればきっと……そんな風に考えていると、黒子くんが恐ろしいことを言い出した。

「仮に正体を見破ってもあの人のシュートは止められないかもしれない……!」
「ええ!?」

正体分かっても止められないってどういうこと!?そんなに氷室さんって上手いの!?いやさっきまでのプレイは確かに見惚れるくらいに美しかったけど!コートの中で火神くんと睨み合う氷室さんに目を向けた。コート外での落ち着いた姿とは正反対の、闘志がギラギラと溢れる目をした氷室さんが火神くんに畳み掛けるように言う。

「もっと殺す気でこいよ」

言ってることはもっともだ。もう彼らは兄弟の契りを交わした少年ではなくて、ウィンターカップで鎬を削り合う敵同士なんだから。…でも、そんな風に言われちゃうと火神くんもきついだろうなあ。

見かねた監督が火神くんとつっちーを交代させて一旦ベンチに引っ込めた。

「アイツは優しすぎる」

木吉くんの言うことも、もっともだと思う。かつての友達や仲間と試合で対戦するなんてよくあることで、実際黒子くんは高校で中学のときの仲間のキセキの世代とぶつかりまくってるわけだし、遠慮だって全然していない。試合に関してはとことんクールだ。でも、火神くんにとっての氷室さんとの関係はきっと、まだそこまで割り切れるようなものじゃない。納得いかなさそうな顔をしてる火神くんの背中をバンバン叩く。大丈夫、頭冷やしたらまたコートに戻してもらえるから、たまには外から先輩たちの背中見るのも大事だって。黒子くんと火神くんがいなくても、皆ならイージスの盾を破ってくれるはずだからさ。

紫原くんには相変わらず木吉くんがマークに付いている。何か二人で喋ってるみたいだけどこっちからじゃ聞こえない。だけど、木吉くんの言葉に紫原くんが目を見開いたのを見て、また何か紫原くん刺激するようなこと言ったな…と黒子くんと目配せをした。本人は煽ってるつもりないっぽいから手に負えないなぁ。紫原くんはコートの外からでも分かるくらいにイライラしている。何を言われたのかはわからないけど、おそらく木吉くんみたいな熱血バスケ馬鹿は嫌いなんだろう。わざわざ疲れるようなことはしたくない、みたいなこと前言ってたし。勝つための努力なら何でもするうちとは正反対だ。

木吉くんの放ったボールを紫原くんがブロックで止めた。止まらない紫原くんの勢いに観客席がどっと沸く。でも、まだだ。弾かれたボールは伊月くんの手にある。伊月くんから回されたパスを受け取った木吉くんがシュートモーションを取った。お願い木吉くん、イージスの盾を破るには最初の一発が肝心だから、ここは絶対に決める場面だよ。手から放たれたボールが弧を描いてゴールポストに吸い込まれる。木吉くんのスリーポイントシュートが決まった。

センターの木吉くんがスリーなんてまぐれでしょ、と思う人もいるかもしれない。でも、うちはまぐれを期待してやみくもに策を変えるチームなんかじゃない。すべて計算尽くだ。木吉くんがポイントガードをするってことは、それに反応するであろう紫原くんを引きつけることが出来るってこと、彼にジャンプを跳ばせることが出来るってことだ。そしてその周りにはイーグルアイを持つ伊月くんがついてる。伊月くんが放ったボールを木吉くんがゴールに押し込んだ。やった、遂に陽泉の鉄壁の守りから2点取った!

そのまま勢いづいた誠凛がポイントガードの木吉くんを軸にして立て続けにポイントを決める。中が入るようになったおかげで外からも点取れるようになってきたし、点差は37対28で遂に9点差まで縮まった。さすがの陽泉もここまで点差が縮まるのは予想外だったのか、タイムアウトを取ったのを見てしめしめと思う。まだこっちが負けてるのには変わりないし、紫原くんを完全に止められたわけじゃない。氷室さんの消えるシュートの謎も残ってる。でも、ここまでやられるとは正直向こうも思ってなかったんじゃない?と誇らしい気持ちだ。うちのプレイスタイルは話には色々聞いてただろうけど、やっぱり実際に対戦するのでは訳が違うし、頭で分かってても対応しきれないことだってある。そして何といっても木吉くんが紫原くんを挑発して怒らせたのが一番効いてるっぽい。向こうに嫌われてることを逆手にとって戦術にしちゃうなんて、普段はあんなんでもバスケになったら結構したたかだよねぇ。

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