Machine-gun Talk! 91

ここぞというときの日向キャプテンの勝負強さというか、肝の据わり方には尊敬の一言しかない。紫原くんを止めた後の一発目の攻撃、絶対に落としたくない場面でスリーポイントシュートを撃つなんて、しかも決めるなんて。誠凛もとんだ博打打ちだなって陽泉やギャラリーはきっと思ってるだろう。でも残念でした、負けず嫌いで何としても陽泉と紫原くんに一泡吹かせてやりたいと思ってるのは黒子くんだけじゃなくて、ここにいる誠凛の全員なんだから!

誠凛の新ディフェンスフォーメーション、オールコートマンツーマンが始まった。バスケは一人でプレイしてるんじゃない。一度紫原くんにボールを持たせてしまえば、正面切って止められる術は今のうちにはない。それならゴール下に辿り着くまでに捉えてしまえばいい。当然こっちもしんどいけれど、そもそもウィンターカップに出てくるような強豪校が、キセキの世代がそう易々と勝たせてくれるわけないって、端から分かってるから。走力勝負は承知の上だ。

それにこのフォーメーションはただのオールコートマンツーマンじゃない。黒子くんのスティールを最大限に活かして相手チームのパス回しを封じるその名も「ステルス・オールコート・マンツーマン」だ。ちょっと名前長いけど格好いいよね!

実践するのは初めてで、黒子くんのパスカットも毎回確実に出来るわけじゃないけれど、確実に新フォーメーションの成果が出ている。残念ながら第三クォーター終了間近に伊月くんが放ったシュートはノーカンにされちゃったけれど、点差は47対43にまで縮まった。第四クォーターも引き続きこのフォーメーションで攻め…え、火神くん紫原くんと同じように2Pエリア全域カバーするの?一人で?さすがにムチャでしょ!これまでの成長速度の速さ見てたらもしかして…と思わなくもないけど、それでもムチャでしょ!てっきり皆も同じ意見だと思っていたのに監督が「わかったわ」なんて言うから思わず「ええ!?」と声を上げてしまって、文句あるの?とでも言いたげな顔で睨まれてブンブンと手と頭を振る。監督の采配に文句なんてあるはずありません。もちろんですとも。……え、木吉くんなんで泣いてるの?もしかしてあたしの振ってた手当たった?

何で泣いてるのかと尋ねられて「なんでだ?」と返す木吉くんに「お前の心情オレが知るか!」と返す日向キャプテンにそりゃもっとも、と頷いた。それにしても、木吉くん本当にどうしちゃったの?そんなに足痛かった?氷増やしたほうがいいかな?一年生たちと心配していると、「お前ら見てたら頼もしくてホッとしたって言うか……一人じゃないことを実感して、つい…な」なんて木吉くんが言い出したもんだから心の中で盛大にずっこけた。今さらそんなこと言っちゃう?そう思ったのはあたしだけじゃなかったようで、皆が口々に木吉くんに文句を言い始めた。

「今さら何当たり前のこと言ってんだお前!逆に腹立つわ!」
「すんません正直オレも……」
「ボクも……」
「コガちょっとそこのバッグからハリセン出して」
「そんなこともあろうかともうハリセン用意してました!はいどうぞ伊月くん!木吉くん天然なのは知ってたけどちょっとおとぼけが過ぎるよね!みんながやらないなら張り切ってあたしがやるよ!」
「ちょっ、さん怪我人に全力のハリセンはさすがにまずいって!」
「大丈夫、木吉くんならハリセン受けたぐらいじゃ死なないから!」
「ちょっと今それどころじゃないでしょ!」

そうだった。まだ試合は終わっていなくて、これから陽泉を倒しに行かなくちゃいけないんだ。それまで木吉くんには死なれちゃ困る。ハリセンで叩いたぐらいでこの人がどうにかなるとは思えないけど。「しょーがないからハリセンは試合後までお預けね」と言うと「怖いなぁ」なんて返してくる木吉くんを肘で控えめに小突いてやった。ちっとも怖くなさそうな顔しちゃってさ、本気になったあたしのパワーがどんなもんか知らないからそんな悠長な顔してられるんだ。

インターバルが終わった。最後の10分間、第四クォーターが始まる。黒子くんの提案で円陣を組んだ後、コートへ向かっていく選手の背中を見送る。黒子くんの言った通りだ。たとえコートの上に立っていなかったとしても、あたしだって皆で勝ちたいし、このチームならそれが出来るって信じてるよ。

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