Machine-gun Talk! 93

ゾーンに入ったときの火神くんのプレイの凄まじさは前の桐皇戦で十分に分かっているつもりだったけれど、それは思い上がりだったみたいだ。紫原くんのダンクを止めたかと思ったら今度は氷室さんの陽炎のシュートをばっちりブロックしたのを皮切りに、普段全然やらないはずのスリーポイントシュートは決めるわ、紫原くんの回転しながらの両手持ちダンク、トールハンマーまでブロックした上にあの紫原くんに膝をつかせるわで、さっきまでとは別人のようなキレキレの姿に同じチームのあたしたちまで呆気にとられる。え、さっきの黄瀬くんが火神くんになんか言ってたのって、ドーピング的な何かじゃないよね……?ゾーンってここまで圧倒的なものだったっけ……?

前は火神くんだけじゃなく青峰くんもゾーンに入ってたからエース同士の直接対決って感じでお互いにやるかやられるか、みたいな状態だったけど、今回ゾーンに入ってるのは火神くんだけだから…コートの中は彼の独壇場のようになってしまっている。前の火神くんがそうだったように、触発されて紫原くんや氷室さんがゾーンに入ってしまったらまたうちがピンチになることに変わりないけれど、今のところあの二人がゾーンに入ったような気配はない。試合時間は残り3分。このまま追い上げられれば、陽泉を、イージスの盾を崩せるのかもしれない。

氷室さんばりのフェイクで向こうのキャプテンを抜いた火神くんが飛んだ。レーンアップだ、でも紫原くんもゴール下に戻ってる。ダメだ止められる……!

おかしい。先に跳んだのは火神くんの方なのに、後から跳んだ紫原くんの方が先に地面に足をつけている。まるで宙に浮いてるかのように長い滞空時間を見せた火神くんがダンクを決めた。

「うわー火神くん凄い!神がかりすぎててむしろもう怖い!ていうか今の火神くん飛んでなかった!?ジャンプじゃなくて浮いてたよね!?鳥みたいだったんだけど」
「……エアウォークね…まさか体現できる人が高校生でいるなんて」
「エアウォーク!?宙歩いてるってこと!?」
「そんなことより、タイムアウトよ!氷とスポーツドリンク持ってきて!」

タイムアウトを取ったのは、うちじゃなくて陽泉だ。紫原くんにも止められなくなってきた火神くんの怒涛の勢いに、さすがにまずいと思ったんだろうか。スポーツドリンクを集めて皆に配っている間、気になって向こうの様子を眺めていると、……えっ紫原くん氷室さんに殴られたんだけど!?めちゃくちゃ揉めてるじゃん!

「ちょっ、火神くんあれ!」
「……あー…あいつクールぶってるけど意外と頭に血上りやすいから、……っすよ」
「冷静に分析してる場合じゃなくない!?」
「おそらく紫原くんが何か言ったんでしょう。『もう試合出るのやめる』とか」
「えっいいのそれ!?いやうちとしては紫原くんいない方が勝ち目が出てきて嬉しいんだけど!なんかそれで勝っても嫌じゃない!?」
「大丈夫ですよ。ほら、ちゃんと出てきたでしょう」

そう言って黒子くんが指差した先にヘアゴムで髪を縛った紫原くんが立っていた。本当だ、さっきまで揉めてたのに、もう何もなかったみたいな顔してる。いや、あの顔はむしろ、

「今までで一番……ヤバそうです」

そのまま揉めてコートに出るのやめてくれてたらこの試合はほぼ誠凛の勝ちだったろうに、そうも上手くはいかないし、紫原くんがやる気出したっぽいから尚更ピンチになりそうなのに黒子くんなんてちょっと嬉しそうな顔してるし、男の子ってそういうところあるよね!

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