Machine-gun Talk! 94

タイムアウト後になんだか吹っ切れたような感じがするのは、紫原くんだけじゃない。氷室さんもだ。これまではエース二人がそれぞれのスタイルでゴールを決めていく攻め方だったのに、ここにきて連携してくるなんて、陽泉の負けず嫌いさも相当のものだと思う。うちと良い勝負かも。

試合時間は残り2分、点差は72対66。より確実に火神くんに点を取らせるために火神くんにポイントガードをやらせてはいるけれど、紫原くんと氷室さんの二人がいる限り最後まで気を抜けない。こっちが点を取っても取り返されて終わりだ。火神くん一人だけに任せてちゃダメだ。どうにかしてあの連携を止めないと、点差が縮まらないまま試合終了になってしまう。

ラスト1分、流れを変えるとしたら今しかない。満を持してコートに戻ってきた木吉くんはこんな状況だってのに「ただのピンチだろ?終わったわけじゃない。楽しんでこーぜ」なんて言うもんだから、本当にわかってんの?と言いたくなってしまう。分かってても分かってなくても木吉くんのことだから言うことは変わんないんだろうけど。

火神くんのフェイダウェイが決まった。試合時間は残り50秒を切ってる。点差は4点差にまで縮まった。…ここからのプレーの一つ一つが、勝負を決める。あと1つでも陽泉にゴールを決められたら、もう取り返せないだろう。そのためには、エース同士が連携し始めて手がつけられなくなってきたあの陽泉の攻撃を連続で止めて、なおかつ連続で2ゴール以上をうちがもぎ取る必要がある。とんでもない超難関だ。……まあ、負ける気なんてさらさらないけどね!

陽泉が動いた。氷室さんが陽炎のシュートのフォームを取る。シュートフォームを構えた氷室さんに立ちふさがったのは木吉くんだ。あ、一度めのリリースでブロックに飛んだ……ってことは二度めに撃たざるをえない状況に持ち込んだってことか!木吉くんってばバスケのことになると賢いじゃん後出しの権利持ってるだけあるわ!……あれ?

一度めのジャンプがフェイクなことが氷室さんに読まれていた。…マジで?さっきまで完全にジャンプ跳ぶ感じだったよね?それに氷室さんも引っかかってた感じに見えたよね?まずい、このまま二度めのリリースで撃たれたら木吉くんも火神くんも間に合わない…!そのときだ。「ふんがっっ」と苦しそうな声をあげた日向キャプテンが氷室さんの手のボールを弾いた。えっ何でここでキャプテンが!?木吉くんが氷室さん止めるの失敗するの分かってたの!?いや、それよりも今はカウンターだ。ここで決めなきゃ後がない。

伊月くんのパスが火神くんに渡って、火神くんがシュートを撃つ。ゴッと音を立ててボールがリングの外へと弾んだ。うそ、火神くんが外した…!?まさかゾーンが切れかかってるのか。もう最後30秒もないっていうのに、ここにきて……!

「リバウンド!」

ベンチの皆の声が合わさる。その声に応えたのは木吉くんだった。大きな手に掴まれたボールが日向キャプテンの元へ投げられる。そしてスリーポイントシュートが決まった。ちょっとさっきから日向キャプテン大活躍してない!?めちゃくちゃ格好いいんだけど!

ワアアアアと、体育館が壊れるんじゃないかと思えるくらいの歓声が響いてくる。残り20秒でとうとう1点差まで追いついた。凄い、なんかもう、凄いとしか言えない。……本当に、鉄壁の陽泉を崩せるあと一歩のところまできたんだ。握った手のひらがどうしようもなく震えた。あと1点、あと20秒で、全てが決まるんだ。

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