Machine-gun Talk! 96

「えっ黒子くん海常の相手チームの選手と知り合いなの!?誰!?あのドレッドヘアの子!?」
「はい。……灰崎くんとは、中学2年で黄瀬くんが入ってくるまでチームメイトでした」

黒子くんってバスケのことになると結構顔広いよね。それもそうか中学バスケ界最強の帝光出身なんだもんな。そのチームメイトで一軍だったってことはあの選手もキセキの世代ってことか……。どんなプレーする人なんだろう。黒子くん曰く「自分勝手でとにかく制御がきかない人」らしいけど、元キセキの世代ってことは今まで会った4人と少なくとも中学時代は同格だったってことだろうし…。キセキの世代vs(元)キセキの世代かぁ。桐皇対海常の時みたいな試合になるのかな。

それにしても、普段人のことを悪く言わない黒子くんのことだから相当マイルドに表現したんだろうけど…火神くんの話聞いてるとあの灰崎って人、相当おっかない選手だよね。お互い選手なのに試合前に迷いなく殴りかかってくるような人なんだし。そんなチーム相手に、黄瀬くん、それに笠松さんたちはちゃんと全力を出して戦えるだろうか。何か誠凛が霧崎第一とやったときのこと思い出しちゃうなあ。

海常高校と福田総合学園の試合が始まった。スタートは海常ボールからだ。ちょっと、笠松さんってばまた一段と動きのキレ増してない!?今のドリブルとか最高なんだけど!またあたしみたいなファン増えちゃうじゃん!罪作りが過ぎる!思わず隣に座る火神くんの背中をバシバシ叩くと「痛ぇんだけど!?」火神くんが抗議の声を上げた。甘いな、これしきの愛を受け止められなくて誠凛が誇るエースがどうするんだ。

火神くんと「痛い」「痛くない」の応酬を続けているうちに黄瀬くんのスクープショットが決まった。それさっき福田総合の選手がやってみせたやつ…!相変わらずとんでもない学習スピードだ。のっけから全開の黄瀬くんに会場がわっと沸く。今度は福田総合の灰崎くんがボールを持った。……え、今の森山さんの変なフォームのシュートじゃない!?

「ちょ、黒子くん、あの灰崎くんって子黄瀬くんと同じようなことしてるんだけど!?さっきの森山さんのシュートそっくりだったよね!キセキの世代って技コピーできる人二人もいたの!?」
「……いいえ、黄瀬くんとは少し違います」

灰崎くんは黄瀬くん同様、見た技を一瞬で自分のものにするけれど、黄瀬くんとは違ってリズムやテンポだけ我流に変えてしまうらしい。見た目が全く同じでリズムがわずかに違う技を見せられた相手は無意識に自分のリズムも崩されて、ええっと、……つまり?

「灰崎くんは技を奪う」

森山さんのシュートが外れた。おかしい。外れたのはもちろんだけど、あの謎フォームのへなへなシュートが撃ててない…!ぺろりと舌を出しておよそスポーツを楽しんでいる男子高校生とは思えない凶悪な顔をした灰崎くんを観客席から見下ろした。灰崎くんは技を奪う。それはつまり、奪われた相手はその技を使えなくなっちゃうってことで、それじゃあ、……それじゃあ。試合が進んでいくにつれて海常が不利になっていくってことじゃないのか。コートの中の黄瀬くんに視線を移す。コートの外で見せる軽いノリとは全然違う、真剣な顔。それだけの想いをこの試合に、ウィンターカップに懸けてるんだよね。あたしたちは準決勝で待ってるから、黄瀬くんとちゃんとこのウィンターカップの大舞台で戦いたいと誠凛の皆で思ってるから、早くここまで勝ち上がってきてね。

第三クォーターが終了した時点の点差は51対63で福田総合がリードしている格好だ。中学のとき、黄瀬くんが灰崎くんに勝てずじまいだったと黒子くんから聞かされたのを思い出す。技を奪うだけじゃない。元キセキの世代と呼ばれたのは伊達じゃない。素行の悪さは別として、本当に灰崎くんは強いんだ。

最終クォーターが始まった。笠松さんが回して、黄瀬くんが点を入れて何とか食らいつこうと頑張ってはいるものの、やっぱり分が悪いのはやればやるほどに技を奪われてしまう海常だ。インターハイでどうやら青峰くんと同じように体を痛めていたらしい黄瀬くんはオーバワークが祟って本調子が出せないみたいだし、反対にどんどん使える技が増えていく灰崎くんと福田総合は攻撃の手を緩めない。…信じたくない。信じたくないけれど、黄瀬くんが、そして笠松さんと海常がピンチに陥っているのは誰の目にも明らかだった。

試合時間は残り5分、点差は17点もついてしまっている。強豪と謳われてきた海常とキセキの世代の黄瀬くんが負ける。最悪のシナリオが試合を見る誰の頭にもよぎったそのときだった。

「信じてますから…!黄瀬くん!!」

すっくと立ち上がった黒子くんに「どうしたの?」と聞く間もなく、黒子くんが聞いたこともないような大声を出した。突然会場に響き渡った大声に、声の主を探したギャラリーがきょろきょろと辺りを見渡すのが見える。黄瀬くんや笠松さんたちがこちらを向いているのを見て、ブンブンと勢いよく手を振った。黒子くんだけじゃない。あたしたちは信じてる。……陽泉と戦ったときに黄瀬くんがそうしてくれたみたいに、ほんの少しだけでも、闘志が蘇るきっかけになってくれれば。その一心でただひたすらに手を振り続けた。

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