Machine-gun Talk! EX02

※主人公一年生時の話

高校に入学して一目見たときから忘れられない人がいた。ビビビッときてしまったのだ。恋愛とかそういう意味を含んでいるものではなく、ただの純粋な興味と好奇心が私の心の奥をくすぐった。木吉鉄平。直接話したことはないものの、彼からは何か惹かれるものを感じた。それは決して彼の身長が同級生の男の子たちを遥かに凌駕しているということから来るものだけではなかったのだと思う。

一度気になってしまっては何か行動を起こさないといられない性分のあたしも、今回ばかりは気が引けてなかなか木吉くんに話しかけられなかった。クラスの女の子に聞いた話によると、木吉くんはクールで格好いいと女子の間でにわかに噂になっている伊月くんと、猫みたいな印象を受けずにはいられない(特に口が可愛い)小金井くんと、喋らないけどさりげなく優しいところが素敵だと評判の水戸部くんを引き連れて男子バスケットボール部を創設するための部員勧誘に勤しんでいるらしく、女の子に生まれてきたことをこれ程までに悔やんだ瞬間は後にも先にももう訪れないんじゃないかと思った。

誠凛は最近出来たばかりの新設校だから…なのかは本当のところ分からないけれど、バスケットボール部が存在しない。それを木吉くんたちは創設しようとしているらしい。そんなこと本当に出来るのかな。中学でバスケはもう辞めたつもりだったけど、ああやってバスケをやりたいと言ってる人たちを目の当たりにするとやっぱりやりたくなってしまう。マネージャー募集してるみたいだから言ってみたら?と友達に言われて考えてみたけれど、やっぱりあたしは選手としてバスケがしたいんだよな…と考えてそこでまた壁にぶち当たった。そもそも誠凛にはバスケが出来るだけの環境が存在しないのだ。

「バスケ好きなの?」

いっそのこと地元のチームに入って練習に混ぜてもらおうかと考えていた矢先、あろうことかあの木吉鉄平本人に話しかけられた。返事をしようと後ろを振り向いた瞬間に思わず固まる。まずい、予想外の展開すぎて全く声が出ない。

「え、あたし……えっ?」
「キミだよ。バスケやりたいって言ってたんだろ?俺もバスケやりたくて皆とバスケ部作ろうとしてるんだ。良かったら一緒にやってみないか?」

人数ギリギリで結構困ってるんだよな、と木吉くんは笑いながら言った。これはつまり、マネージャーのお誘いを受けているのだいう風に受け取っても構わないのだろうか。相田さんを誘ってキッパリ断られてた、って聞いたんだけど相田さんのことはもう諦めるのかな。一度断られただけで引き下がる人にはどうも見えないけれど実際のところどうなんだろう。木吉くんの真意が全然掴めない。

「あの、あたしあんまり器用じゃなくて、マネージャーとかそういうのはちょっと……」

しどろもどろになりながらもそう言うと、何故か木吉くんはきょとんとした顔をした。

「あれ?マネージャーをやりたかったのか?」
「……はい?」
「オレはてっきりバスケやりたがってるんだとばっかり……いや、悪い悪い、勘違いしてたみたいだな。勿論マネージャーも募集してるぜ」

改めてよろしくな!なんて言って、木吉くんは握手を求めてきた。差し出された大きな手をじっと見つめる。勘違いしてた、って何だ。マネージャーのお誘いじゃなければこの人は一体何を意図してあたしに話しかけてきたんだろう。

「あー……いや、違くて、いや、違わないけど……えっと、その、何て言うか」
「『バスケがやりたいんだ』」
「えっ」
「……だろ?」

返す言葉を探していると木吉くんが悪戯に笑った。はっきりとした否定も肯定も出来なくてゆっくりと頷くと木吉くんは満足げに親指を立ててくる。

バスケがやりたいんだ!なんて、そんな青春漫画みたいな台詞が似合うのもこの人ぐらいだろう。わははと笑いながら肩をばしばし叩かれる。手加減してるつもりなんだろうけどちょっと痛い。

「やっぱりそうじゃないかと思ってたんだよな。キミ、バスケ好きそうな顔してるし」

どんな顔だよ。そう突っ込もうとした言葉は彼の次の言葉に遮られてしまった。

「ここにはまだやれる場所はないけど、やれる場所がないなら作ればいいさ。俺は必ず創ってみせるよ。何せ、キミと一緒でバスケが大好きだからな」

お互い頑張ろうぜ、と最後に拳をこちらに向かって突き出す仕草をしてから木吉くんは去っていってしまった。何だったんだ本当に。言い逃げか。もしかして励ましに来てくれた……とか?いやいや、幾らなんでもそれはポジティブに考えすぎかも知れない。

それから一週間と経たないうちに男子バスケットボール部は創設された。屋上からのあの『全裸で告白する』宣言が効いたらしい。快進撃を続ける男バスの活躍に畳み掛けるようにして女子バスケットボール部創設の話を持ち込むと、いい加減うんざりしたのかようやく先生から『補助金は出せなくても構わないのなら好きにしてくれ』との許可が出た。やった。やったよ木吉くん。報告しようと思った矢先に木吉くんが入院してしまったおかげで喜びは伝えられなかったけど、また会える日が来たらあの日のファイティングポーズを返すのと一緒に女バスのことも報告しようと思う。



「そういや最近思い出したんだけど、一年の春にバスケ部作りたいって言ってた女子がいてな」
「……は?」
「結局作れたのかは分からないまま俺は入院しちまったけど、リコたちから色々話聞いてると、あの子も日向たちみたいに頑張ってるといいなと思うんだよ…って、どうしたんだ日向?」
「おまっ……そいつって名前じゃなかったか!?」
「ん?……そういやあのとき名前聞くの忘れてたな」
「ばっかやろお前が言ってるそのバスケ部の女が今俺らのマネージャーやってるだっつの!」
「え、女バスじゃなくて結局マネージャーになったのか!?」
「だから違えよ!いい加減人の話をちゃんと聞いとけっつーの!だからムカつくんだよお前は!」
「ははは、そんなに怒ると血管切れるぞ日向」
「こいつの相手すんのマジで疲れるわもう……」

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