Machine-gun Talk! EX03

の手を借りたいのだよ』

まさか秀徳高校、それもあの緑間くんから助けを求められる日が来るとは夢にも思わなかった。

練習後、ネタを披露しようとしてくる伊月くんの攻撃を華麗にかわしてあたしは秀徳高校へと旅立った…というのは嘘である。迎えに来てもらった。高尾くんでも緑間くんでもなく綺麗な顔で怒り狂う宮地先輩に。何で迎えに来てもらったのかって?もちろんリアカーに決まっているのだよ!(ちょっと緑間くん意識してみた)

緑間くんからのよく分からないSOSを受信してすぐに電話をかけてみたけど無駄だった。仕方なく高尾くんに連絡すると「緊急事態なんすよ!」と言われるだけでますます訳が分からなくなるばかり。とりあえず迎えに行くからと言われて大人しく待っていると宮地先輩の運転で颯爽とリアカーに乗りながら高尾くんと緑間くんが登場した。度肝を抜かれたのは言うまでもないだろう。

何でいつもリアカーなの。何で今日は高尾くんが引いてないの。そして何で代わりに引かされてきたらしい先輩は怒り狂ってるの。何一つ分からないままリアカーに乗り込んだ。リアカーに乗せてもらうなんて、もしかしたらもう二度と出来ない経験かも知れない。そう考えたら「何でオレが後輩乗せて走らなきゃなんねーんだよ…!」と怒ってる先輩には申し訳ないけど楽しくなってきてしまって、

「イエーイ!高尾くんイエーイ!」
「イッ……イエーイ!宮地先輩何かすいません!」
「すいませんも何も高尾、顔が笑っているのだよ」
「あっバカ真ちゃんそれを言うなって……!」
「よーし分かった、死にたいんだな、高尾、緑間ァ!お望み通り振り落としてやるよ!」
「うわああああ!宮地先輩、ちょ、速い速い速い!スピード落として!スピード!安全運転でお願いします!」
「うるせえお前ら全員まとめて振り落としてから軽トラで轢く!」
「全員!?何であたしまで!」
「お前が一番楽しんでんだろーがああああ!」

そんなこんなで地獄送りにされかけたあたしと緑間くんと高尾くんは宮地先輩の殺人的リアカーで秀徳高校の部室まで送り届けられた。有り得ないスピード出されて一瞬風になってしまうかと……。

宮地先輩は本当にリアカー要員だったらしく、あたしたちを校門のところで降ろすと「お前ら今度オレを利用したら許さねーからな!」と捨て台詞を吐いて普通に帰っていってしまった。帰るときもリアカー引いてたらキャラが確立されて面白かったのに。緑間くんたちの教室に入ると適当な席に緑間くん達と向かい合う形で座らされる。終始にやにやしている高尾くんを放置したまま緑間くんが口を開いた。

「早速本題に入ろうと思うのだが、」

そう言って緑間くんは机の上に置かれている袋を指差した。

「キミにプレゼントがある」
「………え!」
「真ちゃん、その言い方だと誤解される」

誤解されるって何だ。

「訂正する。是非ともキミに貰ってもらいたいものがあるだけだ」
「だからそれをプレゼントって言うんじゃ……」

そう言いながら勧められるまま袋の中を覗き込んで驚愕した。袋にはぎっしりと赤い毛糸で出来た何かが詰め込まれていたのだ。引っ張り出すと、まあ伸びること伸びること。(あたしの見解が間違ってなければ)どうやらこれはマフラーのつもりらしい。

「……どしたのこの真っ赤な長いマフラー」
「貰ったのだよ」
「貰ったってこんなの誰に……あ、分かった!彼女か!」
「違う」
「違うの?」
「ああ」
「じゃあ誰からこんな手編みのマフラー貰ったのさ」
「キャプテンだ」
「……はい?」
「だから、その手編みのマフラー諸々はキャプテンから貰ったのだよ」

キャプテンっていうと、あの、高校生離れしたパワーでダンクをぶちこむ秀徳の熱い鉄壁の人のこと……で?ええええ?

「えええええ!このマフラーあのキャプテンが作ったやつなの!?そこら辺の店のやつより綺麗な出来映えなんですけど!」
「……ほらな?やっぱり誰に言っても驚くんだよ」

ダメだ。大坪さんが、あの火神くん顔負けのパワーダンクをやっちゃう大坪さんが、ちまちま編み物やってるとこ想像したらめちゃくちゃ面白くなってきた。マフラーと二人から顔を背けて笑いを堪える。高尾くんは思い出すと今でも笑ってしまうらしく顔をひきつらせながら笑いを堪えている様子だった。

「それで、に頼みがあるのだが……」

緑間くんはそこで言葉を切って、耐えきれずに笑い出した高尾くんをキロリと睨み付けた。静かにしろ、と言いたいらしい。ごめ、緑間くんには悪いんだけど高尾くんにつられて笑っちゃいそ、……すいませんちゃんと聞きます。ちゃんと背筋も伸ばします。笑いません。だからその怖い顔やめて後輩相手に萎縮する先輩なんて情けなくなるから。

「そこにある小物を貰ってくれないか」
「小物?」
「ああ」
「何かキャプテンが編み物に凝ったとかで、大量に緑間に押し付けて帰っちゃったんすよねー」

なるほど。この赤い小物達はさしずめマフラーの副産物って訳か。それにしても見事に赤色ばっかりで情熱的だ。がさがさ漁っていると膝掛けらしき物体が出てきた。……監督いつもミニスカートだから体冷やしちゃうの対策にこれ使うように言ってあげよう。

「何か気に入ったものはあるか?」
「んー……じゃあこの膝掛けと編みぐるみ貰って帰ろっかな。本当に貰っちゃっていいの?」
「勿論だ」
「その為にわざわざ秀徳まで呼んだんすから!」

まじでか。あたしこの為にわざわざ宮地先輩リアカー引いて来させちゃったのか。悪いことしたな。緑間くんがマフラーはどうかと勧めてくれたけど長すぎてぐるぐる巻きになっちゃいそうだから丁重にお断りしておいた。いくら編み物に凝ったからって長すぎるよね緑間くんの身長くらいあるもの。どんだけ防寒するつもりだったんだよ。

「あ、あたし帰りは」
「安心しろ。リアカーで送っていく」
「え!」
「え!」
「何を嬉しそうな顔をしているのだよ高尾。オレではなくお前が引くに決まっているだろう」
「たまには自分で引けっつーの!」

申し訳ないと思いつつ高尾くんの運転で誠凛まで送っていってもらった。途中向かい合って座る緑間くんにハイタッチを求めたけどガン無視。腹が立ったから隙を見てラッキーアイテムを強奪するとバスケのとき以上のスピードで取り返されて彼の執念を感じた。秀徳ってあんまりだと思う、もちろん色んな意味で。



数日後。

「……、その鞄についてる赤いの何だ」
「これ?可愛いでしょ、秀徳のキャプテンに貰ったんだーちなみに手作りなんだって」
「手作……って、はあ!?」
「引き取ってくれる人いなくて困ってるって言ってたから貰ってきた。大坪さんも大きい手してるのに器用だよね。人間何が得意なのか案外分かんないもんだよ」
「オレはどっちかっつーとの交友関係がよく分かんねーんだけど」
「え、何で?別に普通じゃない?」
「明らかに普通じゃねーよ!」

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