日頃の感謝を込めてキャプテンに何かサプライズを仕掛けてやろう、そう持ちかけると「ナイスアイデアだな!」木吉くんがノリノリで乗っかってきた。てっきりコガくんあたりが賛同してくれるのかと思いきや今回彼は水戸部くんと一緒に傍観者側に回るらしい。伊月くんとつっちーはいつものようにストッパーを務めるつもりのようだ。
「とりあえずあたしは日向キャプテンの良い所とか100個くらい書いた紙をこっそりロッカーに入れとけばキャプテンも感激のあまり涙してくれると思うんだよ」
「それ多分不幸の手紙って言うんだと思うよ」
「別の意味で日向が泣くと思う」
「ていうかは日向の良い所100個も思いつくのか?」
「……頼りになる、3P上手い、構ってくれる、誠凛のツッコミ……眼鏡、とか」
「5個しか思いついてなくね!?」
「ダメだダメだそんなんじゃ日向に喜んでもらうどころかめっちゃキレられるよ!」
様々な方向からツッコミを入れられて反応に困ってしまった。そ、そんなにダメな案だったのか…。確かに100個も良い所を羅列するのは多少無理があったかも知れない。じゃあどうしよう。何とかして日向キャプテンに日頃から感謝しているという想いを伝えないとあたしの気が済まないのだ。何故かって?日向キャプテンの誕生日が5月16日でとっくの昔に過ぎちゃっているからだよ!
「どうせならあのキャプテンが泣いて喜ぶようなとっておきのサプライズがしたいんだけどねえ……」
戦国武将フィギュアあげるくらいしか思いつかないんだがマジでどうしようか木吉くん。あたしそんなにお金持ってないんだよね。木吉くんは「日向なら何あげても喜んでくれると思うぞ?」と爽やかに微笑みながら言った。そこでふと気づく。このあたしと木吉くんの組み合わせって日向キャプテンの苛々を最大限にまで増幅させてしまう最悪の組み合わせなんじゃないのか……。だとしたら何をしても苛々させるだけで喜ぶ顔なんて一生見れないんじゃないのか。……やめよう。ネガティブな方向に考えるのはやめよう。
「オレに良い案があるぞ」
どんどんネガティブな方向に思考が進んでいくあたしとは対照的に、木吉くんの顔はとても晴れ晴れとしていた。なんだかとっても楽しそうである。
◎
翌日。あらかじめ打ち合わせしておいたように、日向キャプテンよりも先に朝練後の着替えを完了させた我々は悪戯グッズを手に部室を飛び出した。鍵を閉めて歩いてくる日向キャプテンを横目で確認し、静かに頷く。
「日向ー!」
「キャープテンッ!」
後ろから一気に二人でドーン!とやってやると衝撃でよろけたキャプテンの「危ねえだろうがダアホ!」という怒号が飛んできたけれど気にしない。今にその怒った顔を喜びで破顔一笑させてやるんだからな!
「朝っぱらから騒がしくしやがって……」とぶつくさ文句を言いながら教室に向かおうとする背中を見てにんまりとほくそ笑む。日向キャプテンの背中には『本日の主役』『祝ってください』と書かれた紙が貼ってあった。もちろん私と木吉くんが貼り付けたんけど。さて、お楽しみはこれからである。
◎
……おかしい。今日は全体的に何かがおかしい。普段は言葉を交わすことなど滅多にない奴から挨拶されたり菓子を配られたり「おめでとう」と言われたりする。自慢じゃないがオレはコガやあのマシンガン馬鹿みたいに人懐っこくはないので友達が多い方だとはお世辞には言えないはずなんだが。それにおめでとうって何だ。今日ってオレの誕生日だったか?不思議に思いながらパンをかじっていた昼休み、ケータイが一通のメールを受信した。送信者は。……嫌な予感しかしねえ……。どうせろくなことじゃないだろうと思いながらメールを開くと、そこには。
『楽しんでくれたかな?』
何の話だ。よく分からないまま読み進めていくと、『背中を見てみよう!』という文字と画像を見つけてふとスクロールの手を止める。添付されていた画像の人物の背中には『本日の主役』という紙が張り付けてあって、……。この画像の奴オレじゃねーか!朝からやたらと人に話しかけられたのはこいつらのせいか!?隣りで同じように弁当を食っていた伊月に背中を見るよう言うと返ってきたのは「やっと気づいたんだ」という言葉で。……コイツも共犯かよ……。
勢いよく制服からふざけた紙を剥がすとベリッという良い音がした。あいつらしょうもねーことばっかりしやがって…部活で会ったらしばく。気を取り直してパンを食べようとした矢先、「なんかは日向の泣いて喜ぶ顔が見たかったらしいよ」という伊月の言葉が聞こえて手を止めた。…これでオレが泣いて喜ぶと思ったら大間違いだぞ。「日頃の感謝を伝えるためにサプライズ仕掛けたかったんだって」サプライズって自らネタばらししてるんじゃ意味なくね?そう思ったがまああのアホのことだからそこまで思考が回らなかったんだろう。
日頃の感謝を伝えたいとかいうよく分からん気持ちはまあ…有難く受け取ってやらないこともない。とりあえずへの返信に『部活のとき覚えてろよアホ』とだけ送っておいた。一番下までスクロールしたメールに表示されていた一文のせいで思わずこんなふざけたメールを保護設定にしてしまいそうになったなんて死んでも言えねえ。
『来年は皆でキャプテンの誕生日パーティしようね!』
「……伊月、そのパンに貼ってある値札シールくれ」
「いいけど。何に使うんだよ日向。集めてるのか?」
「あのマシンガン馬鹿に全力で貼り付けてくる」
その日の夕方、「さん100円で売られてるみたいだけどいいの?」とコガに言われて背中の値札に初めて気づいたらしいアイツに「100円って!せめて3000円くらいにしてほしいんだけど!」と言われたので「お前なんか百均で売られてろ」と返すと相当悔しかったらしく「次は絶対感激のあまり泣かしてやるからね!」と闘志に燃えていた。残念ながらオレがお前に何かされて泣くとか絶対ねーと思うぞ。ざまあみろダアホ。