Machine-gun Talk! EX13

花宮とばったり会ってしまった。最悪だ。もう一度言おう。最悪だ。

部活終わった後に今流行りのアクション映画を木吉くんと観に行ったら予想外に笑いあり涙あり恋愛ありの良い映画だった。大変素晴らしかった。涙で非常に残念なことになってしまった顔を洗って、本屋でも寄ろうかと提案してみたのは良かったんだけど。出会ってしまった。そう、出会ってしまったのだ。

バスケ雑誌に知ってる学校が出ていないか確認した後、たまにはファッション雑誌でも読んでみようかと手に取った瞬間現れたのが宿敵花宮真。思いっきり背中を小突かれて振り向けば後ろにいたのは奴だった。ちなみに小突いてきた勢いは「小突く」とかいうレベルじゃなくて「ぶん殴る」に近い。そりゃあ同じ東京都の学校なんだしこうやって街中でばったり会う可能性がないとは言いきれないはずなんだけれど。出来れば限りなくゼロに近い可能性であってほしかったと心から思うね!

「まさか早速この必殺技を繰り出すべきときが来るとはな……花宮!覚悟!」
「あ?」

花宮のガンつけ顔怖ええええええええ。さっきのアクション映画で覚えた構えをバッと繰り出してやると宿敵花宮は悪魔のポーズを構え……たりすることもなく、突然苦しみ出したりすることもなく、至って普通のテンションで「誠凛に帰ってからやれ」と言った。居たたまれない。

「早い話が花宮とはライバルをすっ飛ばして嫌い同士な訳だよ」
「喧嘩売ってんのかテメェ」
「おうともよ。高値で買ってくれるなら喜んで売るけど」
「オマエみたいな雑魚から誰が買うかよバァカ」

喉が渇いてしょうがなかったから自販機で買った紙コップ入りのジュースを危うく握りつぶしてしまうところだった。まったくこの花宮っていう男は、可愛げがない。そう、可愛げがない!

「花宮ももせっかくこうして学校の外で会ったんだから喧嘩するなよ、な?」
「……そんなこと言われても」

それに比べて木吉くんのなんて清らかで美しいことか。心が洗われるようだってこういうときのことを言うのかもしれない。ジュースを飲みきって、紙コップの中は氷だけを残した状態となった。もいっこ大きいサイズ買ってもよかったかもなあ。

木吉くんは良い人すぎるのだ。世の中必ずしも善人が得をするように出来てるわけじゃない。努力を重ねたって必ずしも報われるわけじゃないのと同じように。花宮は花宮であのときの「またやろうな」発言が引っかかってるのかもしれない。一般の男子高校生と同じように葛藤したり、するのかもしれない。想像つかないけど。…想像つかないなホントに。

「……オマエらって毎週こんなことして遊んでんのか」

不意に花宮が呟いた。こんなことって?二人で首をかしげる。きめえと罵られた。納得いかない。

「さすがに毎週遊んだりはしてないよね?部活終わりにマジバ寄ったりはするけど」
「そうだなー」
「…………」
「なにさ花宮?もしかして羨ましいの?霧崎第一も遊んだりしそうなのに遊んだりはしないのかい?」
「うるせぇだまれブス」

ものすごい形相で睨まれた。何だもしかして逆鱗に触れてしまったのか。どれだ。どれがいけなかったんだ。最初から全てがいけなかった気もしなくはない。ブスって。呼吸をするように悪口を吐くその口をいっそチャックで閉めてやりたいくらいだよ。そう言ってやろうとしたのに目の前に花宮の姿がない。あれ?きょろきょろと周りを見回すと花宮はあたしと木吉くんの二人が行く方向とは別の方向に進むつもりだったらしい。しばらく迷った後にぎこちなく手を振ると花宮がもう一回近づいてきた。そして蹴られた。何で!?

「オマエがムカつくことばっか言うからだろうが反省しろ」

どうせあたしが何言ったとしてもムカつくんだろうに無茶言うなよとは言えなかった。かろうじて死守することに成功した掌の中のコップに視線を落とす。紙コップの中の氷は、溶けて完全に水になってしまっていた。

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