Machine-gun Talk! 45

いくらエースの覚醒を待とうがバスケに一発逆転はない。第三クォーター少しと最終クォーター、それまでに取り戻せるギリギリを考えたらやっぱり15点差がデッドラインかも知れない。思いの外早く青峰くんのスタイルに近づいている黄瀬くんに、ギャラリーはどよめきを隠せないでいる。黄瀬くんが再び青峰くんにワンオンワンを仕掛けたときがコピー完成の合図だと木吉くんは言った。それが本当なら、今がきっとその『コピー完成』の時だ。

止めに行った青峰くんが4つ目のファウル。桐皇側が頭を抱える。無理もないよね、黄瀬くんのコピーが完成した今、青峰くんが足止めを食らってしまっては点差なんてあってないようなものだ。まるで青峰くんそのもののような動きを見せる黄瀬くんがふっと見せた表情は何だか寂しそうで、彼は本当にこんなことを望んでるのか疑問に思ってしまった。

第四クォーター、泣いても笑ってもこれが最後。4ファウル取られても尚凄みを増し続ける青峰くんに、点差は相変わらず10点のまま。追う海常に、追われる桐皇。優劣なんてつけられないけれど、結果が出てしまえば勝者は勝者、敗者は敗者だ。信じられない長時間点を取り合って、両チームの体力は限界のように思えた。

海常のチャンスがやってきた。決めれば差はスリー二本分になる。事実上最後の一騎打ちに会場全体が固唾を飲んで見守った。右、左、選択肢は幾らでもある。それでも黄瀬くんが選んだのは笠松さんへのパスで、いくら青峰くんが速くても後出しでこれに触れるのは無理かと思えた。のに、目線のフェイクで次の一手を読みきった彼のセンスに確信する。やっぱり青峰大輝という選手は化物レベルの実力を持っているんだと。

最後の最後まで黄瀬くんは諦めなかった。ダメだ見てるこっちが泣きそう。完全に足にきてる黄瀬くんに笠松さんが手を差し伸べて、整列しに行った。しゃんとした後ろ姿にまた泣きそうになって掌に力を込めた。同じ主将のポジションを担っているのに、あたしは他のどの主将よりも頼りない気がして自分に情けなくなる。

「全国ベスト8だろう!胸張って帰るぞ!」

体育館を去る後ろ姿にありったけの拍手を送った。

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ガンガンとロッカーを叩く音が聞こえる。声なんてかけられる訳がない。なけなしの小遣いをはたいて買った差し入れ(飴一袋)を置いて、その上にメモを置いてから控え室の前から去る。彼のためにあたしが何か出来るとは思わないけれど、近くないからこそ預けられる気持ちもあるんじゃないかと思った。…あたしが憧れの人を支えてあげられるくらい素敵で良くできた人間だったら良かったのになあ。

▼笠松視点

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